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「RED STONE小説~カピの冒険~」
第2章

7.初仕事完了!

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 古都の街が夕日のオレンジ色に染まる頃、カピは再び国会議事堂の前にいた。
 書き留めた噂の内容を再度読み直していると、遠くからカピを呼ぶ声が聞こえた。目を向けると、夕日と同じ色の髪をした少女が、大きく手を振っていた。
「お疲れ様~! どう? だいぶ噂は集まった?」
 アシェリートは、カピが手にしている紙を覗き込んだ。
「話はたくさん聞けたけど、似た内容のものが多かったかな。アシェさんは?」
「私も同じ。ま、ご近所さん同士だから、似るのも仕方ないよね」
 そう言ってアシェリートは肩をすくめた。
「それじゃあ、ロングッシュさんに提出してこよっか」
 守護の兵士に公示帳を見せ、カピとアシェリートは国会議事堂に入った。受付のカウンターでロングッシュ氏に用事があると告げると、彼は急用で出かけたということだった。
「依頼の書類でしたら、ロングッシュ様から伺っておりますので、こちらでお預かりいたします」
「そうですか。では、お願いいたします」
 紙を貸して、と言われ、カピはアシェリートに噂を書き留めた紙を差し出した。
 アシェリートは、腰に下げていたポシェットから1枚の封筒を取り出すと、自分のメモの紙とカピの紙とをその中に入れた。そしてポシェットの中から赤い蝋燭(ろうそく)とマッチを取り出すと、蝋燭に火をつけ、その溶けた蝋を封筒の開け口の部分に垂らして、カピの親指の爪ほどの大きさの丸い円を作った。素早く火を消し、アシェリートは新世界のバッジをはずすと、その垂らした蝋の上に乗せた。蝋が乾いてきたのを確認して、アシェリートはバッジをつまみあげた。蝋の上には、逆向きではあったが、新世界の紋章がくっきりと刻まれていた。
「では、これをロングッシュ氏にお渡しください。よろしくお願いします」
「あ、よろしくお願いします」
 アシェリートの様子をぼんやりと眺めていたが、彼女が軽くお辞儀をしたのを見て、カピもぺこりと慌てて頭を下げる。
 承りました、という受付の女性の笑顔に見送られながら、カピとアシェリートは国会議事堂をあとにした。
 外に出ると、だいぶ薄暗くなっていた。
心なしか、良い匂いが漂ってくる。そろそろ、料理屋が混雑しだす時間だ。
「どうしたの、ぼーっとして」
 アシェリートの声に、カピははっとした。
「分かった、お腹がすいたんでしょ!」
「えっ、ううん、そんなんじゃないよ。……お腹もすいてるけど」
 カピは、先ほどの受付でのアシェリートを思い出していた。冒険家になって1年と言っていたが、自分とは天と地ほどの差があるような気がしていた。
「そっか、じゃあ、どっかご飯いこっか。えーっと、召還獣ってご飯食べる?」
 思い返してみると、カピはケルビーが食事をしているところを見たことがなかった。カピが食事をしている間は、大人しく、足元に座っているところしか記憶にない。
 本当のところはどうなんだろうかとカピが思案していると、
〈食べなくても差し支えはない〉
と、ケルビーが答えた。
 ケルビーはアシェリートに向かって言ったが、やはり、彼女にはケルビーの声は聞こえていないようだった。
「食べなくても平気みたい」
「そっか、了解。カピちゃんは何か食べたいものは?」
「特にないかな。お店とかまだ分からないから、アシェさんに任せます!」
 おっけー、とアシェリートはにっこりと笑った。
 冒険家登録所の近くにある小さなレストランで、カピとアシェリートは食事をすることにした。
 港町シュトラセラトから朝一番で届いたという魚のソテーを食べながら、カピは国会議事堂でのアシェリートがやっていたことに関して問うてみた。
「あぁ、あれね。ああやって蝋で固めておくと、誰か他の人が開けたか開けてないか分かるじゃない? 紋章も捺したから、もしロングッシュさん以外の人が開けたとして、もう一回封をしようとしても紋章が捺せないからね。不正の防止なの。政治が絡むとね……。ライバルがたくさんいるから、書類がわざとすりかえられたりするのよ」
 バッファローのステーキを切り分けながら、アシェリートが説明してくれた。なるほどと、カピは納得した。
「アシェさんは、冒険家になって1年って言ってたけど、なんか、もっとずっと先輩な気がする」
「えぇ? そうかな」
 アシェリートは少し照れたように笑った。
「経験が一番ものを言うと思うから、カピちゃんも色々と依頼をこなしてみるといいよ。私も最初の方は、いろんな人と一緒に仕事してたし。そこで、覚えたことが多いから」
「うん、ありがとう」
 まだまだ道のりは遠いな。
 カピは心の中で小さくため息をついた。
「そういえば、カピちゃんは何で冒険家になったの?」
 アシェリートは切り分けた肉を頬張りながら、首をかしげた。
「いろいろあるけど、一番は、レッドストーンを見てみたいからかな。アシェさんは?」
「私も、レッドストーンに興味があるからかな。でも、もう1つ、理由があってね」
「うん?」
「まだ私が小さいとき、モンスターに襲われたことがあったんだけど、そのときに助けてくれた人が冒険家だったの」
 なんだか小説みたいな話だね、というカピの言葉に、アシェリートはそうでしょう、と笑った。
「名前も何も聞いてなくて。ただその人が、ウィザードだったっていうことしか覚えてないの。深い青の目の色がすごく印象的な人だった」
 遠くを見るような目で、アシェリートは言った。
幼かった彼女にとって、そのウィザードはヒーローのように思えたのだろう。淡い恋心を抱いていたのかもしれない。そしてその想いは消えずに、今でもアシェリートの心の中に息づいているのだなとカピは思った。
「憧れて冒険家になったっていうのもあるけど、もし会えたら、その時のお礼を言いたいな」
 照れたように、アシェリートは笑った。

 食事を済ませてギルドホールに帰ると、かすみが出迎えてくれた。
 カピとアシェリートに1枚ずつ封筒を手渡しながら、かすみはにっこりと笑った。
「ロングッシュさんからよ。お疲れ様」
 開けてみると、中には500ゴールドとスキルの石が1つ入っていた。
「明日また、議事堂に来てくださいということだったわ。お願いね」
 はい、と2人は元気良く頷いた。
「あ、そうそう、アシェちゃん」
「はい?」
「しばらく、カピちゃんと一緒に仕事をしてもらえる? 色々教えてあげてね」
「えっ、私がですか?」
 アシェリートは驚いた表情で、かすみを見た。
「うん、コキュさんやハゲネさんとかがいいかなーっても思ったんだけど、他の人たちにはちょっと難しい依頼を頼んでるから」
 まだ初心者のカピちゃんには危ないの、とかすみは付け足した。
「不都合?」
「いいえ! まだそんなに経験を積んでないから、どうなのかなって思っただけなので」
 アシェリートは慌てて首を横に振った。
「私で大丈夫だとかすみさんが判断したのなら、引き受けます」
「そう、ありがとう」
 かすみはにっこりと笑った。
「そういうわけだから、カピちゃんは、アシェちゃんの言うことをしっかりと聞いて、勉強してね」
「はい! アシェさん、改めて、よろしくお願いします」
「うん、こちらこそ」
 握手を交わす2人を見て、かすみは満足そうに頷いた。

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読みました!おもしろかったですねぇ。。また次回が気になります。この話を読んで、MQ自分も進めなきゃなぁって思いましたww
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